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京都地方裁判所 昭和55年(ワ)417号 判決

原告

駒田富雄

被告

木村美津雄

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、連帯して金二二八万〇二九四円及び内金二〇八万〇二九四円に対する昭和五三年五月一三日から、内金二〇万円に対する本判決言渡の日の翌日から、各完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余の原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して金七六九万五〇一五円及び内金七一九万五〇一五円に対する昭和五三年五月一三日から、内金五〇万円に対する本判決言渡の日の翌日から、各完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

昭和五一年七月三〇日午前一一時三〇分ころ、京都市上京区今出川通天神筋交差点において、被告木村運転の普通貨物自動車(以下被告車という。)が交差点を右折するに際し、対向直進中の原告運転の自動二輪車(以下原告車という。)に衝突転倒させた。

2  原告の受傷内容および治療状況ならびに後遺障害

原告は右事故により上口唇裂傷、右膝挫創、両膝左下腿打撲症、腰部打撲症、右手手指挫創爪剥離、右手Ⅰ~Ⅴ指挫創の各傷害を負い、昭和五一年七月三〇日から昭和五三年五月一三日(症状固定時)まで相馬外科病院において通院治療を受けたが、腰痛、足部疼痛、右腕疼痛が後遺症として残り、現在にいたるまで右病院で通院治療を受けている。そして右示指第二指節関節の屈曲障害、右中指指尖部の知覚鈍麻で右手で全く字がかけない状態で、自動車損害賠償保障法所定の後遺障害一三級の認定を受けたほか、腰痛、疼痛などの後遺障害が存している。

3  責任原因

本件事故は、被告木村が右前方確認義務を怠つたために起つたものであり、被告株式社会福光屋(以下被告会社という)は被告木村の使用者で被告車を保有し運行の用に供していた者であるから被告木村は民法第七〇九条により、被告会社は民法第七一五条自動車損害賠償保障法第三条により、それぞれ本件事故によつて原告がこうむつた後記損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 休業損 二三九万〇六二五円

原告の収入 一か月の平均収入 一〇万六二五〇円

休業期間 昭和五一年七月三〇日から昭和五三年五月一三日まで二二・五カ月

10万6,250円×22.5カ月=239万0,625円

(二) 治療費 一五九万四一七〇円

昭和五五年三月二五日までの間の治療費。

(三) 付帯費 五万八八四五円

昭和五五年三月二五日までの間の指のバンソウコウ代。

(四) 通院交通費 一二万九七〇〇円

(五) 手背屈装具代 一万二八〇〇円

(六) 慰謝料 一九七万円

通院中の慰謝料 一二七万円

後遺症の慰謝料 七〇万円

(七) 逸失利益 四五四万五三七五円

月収 一〇万六二五〇円

労働能力喪失期間 六一歳(大正六年生)から八年間

労働能力喪失率 五〇パーセント

中間利息控除のホフマン係数 五・一三

(イ) 10万6,250円×12カ月×50/100×2年(昭和53.5.13~55.5.13)=127万5,000円

(ロ) 10万6,250円×12カ月×50/100×5.13=327万0,375円

(八) 物損修理費 三五〇〇円

(九) 弁護士費用 五〇万円

5  保険金の受領・一部弁済

原告は、本件事故に基づく自動車損害賠償責任保険金(後遺障害分を含む)二〇一万円を受領し、さらに被告らから一五〇万円の弁済を受けたので、右合計額三五一万円を前記原告の損害金から控除する。

6  よつて原告は被告らに対し、以上の損害合計一一二〇万五〇一五円から、損害の填補分合計三五一万円を控除した七六九万五〇一五円及び内金七一九万五〇一五円については昭和五三年五月一三日から、内金五〇万円については判決言渡の日の翌日から各完済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否および被告の主張

(一)  認否

1 請求原因1、3、5項は認める。

2 同2、4項は争う。

(二)  主張(過失相殺)

本件事故は渋滞中の車両間の事故で、被告木村は、普通貨物自動車を運転して西進し、車進車両が停滞している交差点で右折のため一時停止したが、それを見て東進して交差点に入ろうとしていたセンターラインよりの車と、ついでその左の二台の車も停止し、センターライン寄りの車の運転手が手で先へ行くように合図してくれたので被告車はこれに従い、ゆつくりと右折進行したところ、三列目の車の左側から出てくる原告運転の自動二輪車を認め、ブレーキをかけて停止したが、同時に被告車の左前部角と原告車前部とが衝突したものである。三列に並んだ東進車の左側は二輪車がやつと通れる程度の広さしかなかつたし、さらに、原告は、右折する車のあることを予測せず前方右方の注意を怠り、減速することなく、漫然時速約二〇キロメートルのままで交差点内に進入した結果、本件事故が発生したもので、この点に原告の過失があるというべきである。右各事実を勘案すると、原告の過失の割合は四割ないし五割あるものと思料される。

三  被告の主張に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生と被告らの責任

請求原因1および3記載の事実(本件事故の発生および被告らの責任原因事実)については当事者間に争いがない。右事実によれば被告木村は民法第七〇九条により、被告会社は民法第七一五条および自動車損害賠償保障法第三条により、それぞれ、原告が本件事故によつて受けた損害を賠償すべき義務がある。

二  原告の受傷および治療経過ならびに後遺障害

成立に争いのない甲第一ないし第五号証および原告本人尋問の結果によると、原告は本件事故によりその主張のような傷害を受け、受傷の日から昭和五三年五月一三日まで(六五三日中実治療日数四三九日)相馬外科病院に通院して治療を受けたが、右同日右示指第二指節関節伸展一八〇度、屈曲一七〇度で運動範囲一〇度、右中指の指尖部知覚鈍麻、右示指の爪が二つに割れていることの後遺障害を残して症状が固定したものと診断されたこと、その後も引き続いて同病院へ通院して治療を受けているが、なお右膝関節疼痛、腰痛等があり、これらのため字を書くことや正座をすることが困難な状態にあること、の各事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

三  損害

(一)  休業損害 二二七万五八〇六円

原告が本件事故による傷害のため、昭和五一年七月三〇日から昭和五三年五月一三日まで通院治療を受けたことは前示のとおりであり、原告本人尋問の結果およびこれにより成立の認められる甲第八号証によると、原告は、右受傷の日以降稼動していないこと、原告は大正六年八月一九日生の男子で、本件事故当時山本塗装店こと山本覚太郎方に勤務し、一か月平均一〇万六二五〇円の給与の支給を受けていたことが認められる。

右事実および前示の原告の受傷の部位・程度、通院状況等に照らすと原告は前示の症状固定の診断を受けた昭和五三年五月一三日までの間は稼働することができなかつたものと認められるから、その間の休業損害は左記のとおり二二七万五八〇六円となる。

10万6,250円×(21カ月+13/31日)=227万5,806円

(二)  治療費 一四三万一〇八〇円

前示の甲第一ないし第五号証および成立に争いのない甲第六、第七号証ならびに原告本人尋問の結果を総合すると、昭和五一年七月三〇日から昭和五三年五月一三日までの間の治療費は一四三万一〇八〇円であつたことが認められ、前示の事実に照らすと症状固定の診断がなされた後の治療費もあながち不必要な治療に基づくものといえないから、相当な損害と認められないではないけれどもその具体的な出費を証する証拠はない。

(三)  付帯費(バンソウコウ代) 五万八八四五円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、その主張のとおりのバンソウコウ代等の支出をしていることが認められ、前示の原告の受傷の程度、治療状況等に照らし、右金額は相当な損害と認められる。

(四)  通院交通費 一二万九七〇〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は通院のため自宅より病院までタクシーで通院したこと、その片道料金は四〇〇円くらいであつたことが認められるから、右金額は相当な損害と認められる。

(五)  手背屈装具代 一万二八〇〇円

成立に争いのない甲第一〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故による指の後遺症のため一万二八〇〇円を支払つて手背屈装具を購入したことが認められ、右装具は、有益なものであると認められるから、右は相当な損害と認めるれる。

(六)  慰謝料 一九〇万円

前示の原告の受傷の部位・程度、後遺障害の部位・程度、通院期間、年齢等諸般の事由をしんしやくすると、原告が本件事故により受けた精神的苦痛を慰謝するには、一九〇万円が相当である。

(七)  逸失利益 一一七万六一三六円

原告が大正六年八月一九日生の男子であり、一か月の平均収入が一〇万六二五〇円であつたことは前示のとおりであるから、これによれば原告は本件事故にあわなければ前示後遺障害が症状固定した昭和五三年五月一三日以後八年間は稼働が可能で、その間少くとも右同額程度の収入を得ることが可能であつたと認められるところ、前示のような後遺障害の部位・程度等を勘案すると、原告は前記後遺障害によりその労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。よつてホフマン式計算方法によりその間の原告の後遺障害による逸失利益額を算出すると一一七万六一三六円となる。

10万6,250円×12カ月×0.14×6,589=117万6,136円

(八)  物損修理費 三五〇〇円

成立に争いのない乙第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故により原告運転の原告車が破損し、その修理に右金額の出費を要したことが認められる。

(九)  弁護士費用 二〇万円

本件事案の内容、請求額、認容額その他一切の事情を考慮すると、原告が本件訴訟追行のために要する弁護士費用として被告らに対して請求することができる弁護士費用は二〇万円が相当である。

四  過失相殺

成立に争いのない乙第一ないし第二三号証、証人竹谷宗雄の証言、原告および被告本人木村美津雄各尋問の結果を総合すると、原告は、原告車を運転して前示の交差点に差しかかつたところ、折から進行方向の道路は渋滞しており、走行二車線に車が三列に並んでいて、歩道寄りの車と歩道の端までは、二輪車がようやく通れる程度の幅しかなかつたにもかかわらず、対面信号が青信号であつたため右交差点に進入し、時速約二〇キロメートルで直進した結果、折から対向して来て同交差点を右折中の被告車を認めたが、急制動の措置を講ずる間もなく、原告車前部と被告車左前部とが衝突したものであることが認められ、これに反する原告本人尋問の結果中その部分は前掲の証拠に照らし、信用することができない。

右事実および前示の事実によれば、原告は、三台の停止車両のかげから、右折車があることを予測し、前方を注意すべきであるにもかかわらずこれを怠り、徐行することもなく、漫然と時速約二〇キロメートルで直進した結果、本件事故を惹起するに至つたものであるから、この点において原告にも過失があるといわねばならない。そして右原告の過失と前示の被告木村の過失とを比較すると、双方の過失の割合は、原告が二、被告木村が八と認めるのが相当である。

よつて前記の損害のうち弁護士費用を除くその余の損害合計六九八万七八六七円につき、その二割相当額を減ずると、五五九万〇二九四円となる。

五  保険金の受領・一部弁済

原告が本件事故につき自動車損害賠償責任保険金(後遺障害分を含む)二〇一万円を受領し、さらに被告らから一五〇万円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないので、右三五一万円を前記原告の損害金額から控除することとする。

六  結論

よつて原告の本訴請求は、被告らに対し前示損害金合計五七九万〇二九四円から前記四の保険金及び弁済金の合計三五一万円を控除した二二八万〇二九四円及び内金二〇八万〇二九四円(弁護士費用を除くその余の損害)に対する遅滞の後である昭和五三年五月一三日から、内金二〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡の日の翌日から、各完済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村田長生)

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